晩秋

『 晩秋 』
…行く秋の景色

…前菜八寸『山里』

「色とりどりの落ち葉を踏みしめて歩く山里。茅葺きの民家。時をさかのぼったかのような錯覚さえ覚える昔ながらの風景。」
…そんな情景を前菜八寸として盛り込みました。どことなく懐かしくなるような「秋」の風情を感じていただけたら幸いです。

前菜八寸『山里』
前菜八寸『山里』

「赤楽田舎家」…海老芋雲錦饅頭。銀餡。山葵。
熱々の海老芋饅頭。一口でも食べられる位の小さなものを前菜に加えました。
中には海老のそぼろが包んであります。
晩秋の寒い時期。お客様をお迎えする上で、何か心温まるような演出は出来ないものかと考えました。 茅葺きの田舎家をかたどった器の蓋を開けていただくと熱々の饅頭からふわっと湯気があがります。山里の古民家の囲炉裏(いろり)にのぼる湯気のようです。
季節は寒い冬へと向かっていますが、お客さまに少しでも暖かい気持ちになっていただければ幸いです。

「三足伊羅保三島皿」…炙り寿司と酢取り茗荷。鼈甲生姜の松葉刺し。菱の実の柚子味噌田楽。雪玉に見立てた百合根団子。京小茄子の鰊茄子。
小さなお料理を楽しんでいただきます。

「おふけ輪花向附」…蟹と菊菜と焼き松茸の菊花和え。天盛りイクラ。
さっぱりとした柑橘酢でお召し上がりいただきます。縁起の良い菊花と和えた爽やかな先付けです。

…「魳の献珍包み」と「平茸」の朴葉焼き

「魳の献珍包み」と「平茸」の朴葉焼き

煙と共に拡がる芳ばしい香り…。

豆腐で作った卵献珍に細かく切った椎茸・銀杏・百合根などを混ぜ込んで、柚庵漬けにした魳で包み、平茸と共に朴葉焼きにいたしました。

焼ける朴葉の香り、時折聞こえる炭火のパチパチという音、ゆらゆらとのぼる煙、そして秋の味覚。

目・耳・口・鼻の全てで秋を堪能していただける逸品です。

「枯れて尚、薫りて萌ゆる 朴葉かな」

「魳の献珍包み」と「平茸」の朴葉焼き

朴の葉はとても大きく、おそらく日本の樹木の中では最大級です。
また、その香りの良さが特徴ですが殺菌作用も強く、古くから食材を包んだり、食器として使われたりしていました。
朴葉の「ほお」は「包(ほう)」が由来だそうです。

朴葉は枯れても芳ばしい香りを放ちます。それは熱を加えることで一層際立ち、深い秋を感じさせてくれます。

…紅葉狩り

写真の器「紅葉向附」は、とても気に入っている器の一つです。
紅葉の時期になると必ずと言っても良いほどよく使います。だいたいは「御造り」に使いますが、時には「御水物(デザート)」を盛ったり、いろいろと重宝しています。
お座敷からは紅葉は見られませんが、器の絵柄を眺めていると、そこには山あいの紅葉が鮮やかに拡がります。

紅葉狩り

【 「紅葉狩り」の由来 】

「狩り」という言葉は、獣を捕まえる意味で使われていた言葉です。
それが、野鳥や小動物を捕まえる意味に広がり、さらに果物などを採る意味にも使われるようになりました。
果物を採る意味では、現在でも「いちご狩り」や「ぶどう狩り」などに使います。
やがて「狩り」は平安貴族の間で草花を眺めたりする意味にも使われるようになり、「紅葉狩り」と言うようになりました。

平安貴族は、実際に野や山に出向き「狩り」をするようなことはありませんが、その邸内や庭に咲く草花を眺め、またその枝や花、葉などを手にとって眺めることから「狩り」と言う言葉を遊び心で用いたからだと言われています。
ちなみに「紅葉狩り」という言葉は、1,200年以上も前に書かれた万葉集の中にも登場しています。
昔は、春の「花見」ことを「桜狩り」などといっていたこともあるようですが、 今では「紅葉狩り」以外に「眺めたりする意味」としてはあまり使われなくなりました。
能や雅楽、歌舞伎の世界に「紅葉狩」という演目がありますが、この影響もあって「紅葉狩り」という言葉だけが現在まで残ったのではないかと言われています。

…油物「甘鯛の松笠揚げ」

油物「甘鯛の松笠揚げ」

甘鯛の鱗のサクサクの食感を共に楽しんでいただく「甘鯛の松笠揚げ」です。
「松笠」のように開いた甘鯛の鱗が上手く写真に撮れていないのが申し訳ありません。
小茄子、青唐と共に盛り付け、稲穂の素揚げを添えました。酢橘と塩でお召し上がりいただきます。

【 「ぐじ」の名前の由来と、「若狭ぐじ」 】

京料理の高級食材として珍重される「甘鯛」。
中でもとりわけ有名なのが「若狭ぐじ」です。

「甘鯛」はよく御献立に入れますが、「若狭ぐじ」はあまりにも高価な食材ですので当店では使えないのが残念です。

ここでは「ぐじ」の名前の由来と、「若狭ぐじ」について少し紹介させていただきます。

「甘鯛」とはその名の通り、身が甘いことに由来しており、白身の魚で淡白な中にも味わいの深い、大変美味しい魚です。
京都では「ぐじ」と呼びますが、様々な甘鯛の種類の中でも「アカアマダイ」のことを主に指します。
その角張った頭の形から漁師のあいだで「屈頭魚(くつな)」と呼ばれていましたが、それがなまって「くじ」「ぐじ」と呼ばれるようになったと言われています。

かつて帝(みかど)に食べ物を供することが許された国として「御食国(みけつくに)」と呼ばれた若狭(福井県)。
「ぐじ」の中でも、食材の宝庫と言われる若狭湾で獲れるアカアマダイは「若狭ぐじ」と呼ばれ、最高級食材です。
古くから、ひと塩鯖や若狭鰈と共に京の都に鯖街道を通って運ばれ、「若狭もの」とし、京料理では欠かすことができない食材とされてきました。
暖流と寒流の交わる若狭湾でその身がもまれ、良質の餌を食べて育つため、脂が乗った大きな身となります。淡泊で香りの良い味には、まさに高級感を感じます。
しかし、若狭湾で獲れたすべての「ぐじ」を「若狭ぐじ」と呼ぶわけではありません。幾つもの高いハードルを越え、厳選された大型のアカアマダイだけがはじめて「若狭ぐじ」というブランドで出荷されるのです。

「ぐじ」は身が柔らかくて傷みやすい魚です。
「若狭ぐじ」は、江戸時代から伝わる底延縄(そこはえなわ)という若狭ぐじ用の漁法を行います。
網や竿を使わないで1本の縄をたぐるように引き寄せ、身を傷つけずに捕まえるそうです。
また、運搬時にも身がこすれあったりしないように一つの器に数匹ごとに分け入れて丁寧に運搬されます。
獲れた若狭ぐじは、鮮度が落ちないように冷たい塩水ですぐにしめます。早くしめればしめるほど赤みが増し、味が良くなるそうです。

…御水物(デザート)「柿紅葉」かきもみじ

柿紅葉とは晩秋を表す季語の一つで柿の葉が紅葉すること。
また、柿の葉の本来の緑に赤や黄や茶などさまざまな色が入り混じって美しくいろづくことを言います。
よく冷えた甘酸っぱい御水物(デザート)ですが、「柿紅葉」の色合いような暖か味を感じるまろやかな舌触りが特徴です。

御水物(デザート)「柿紅葉」かきもみじ

梨・葡萄・柿それぞれに白ワインで香りを付け、クリームプディング風のゼリーに沿え、クリームチーズを使ってこしらえた羽二重を鞍掛けにいたしました。
当店の御水物は全くのオリジナル。説明が難しいのですが、きっと気に入っていただけると思います。