秋声

『 秋声 』
……彩られる樹葉のそよぎ

…前菜八寸『 吹き寄せ 』

秋声
前菜八寸『 吹き寄せ 』

秋といえども、紅葉の葉が本格的に色づき、銀杏の葉が黄金色の絨毯を敷き詰めるのはもう少し先のこと。
品種にも地域にもよりますが、十月の初め頃はまだ青い葉を茂らせています。ですが、桜の葉などはしっかりと色づき、山々の景色を彩り始めます。
そんな色鮮やかな風景を八寸として盛り込みました。

前菜八寸『 吹き寄せ 』

箕(み)を模った塗りの盛り器に、一口大の御料理を吹き寄せに…。
名残りの鱧はマリネ風、どんぐりに見立てた二身椎茸など、多様な味と食感をお楽しみ下さい。

【箕(み)は、脱穀などで不要な小片を吹き飛ばすために使う農具で、手箕(てみ)とも言います。
写真の器は、竹で編んだ箕に和紙を貼り、漆を塗ったものです。】

…秋の移ろい

秋の移ろい

一口に秋といいましても、その表情は多様に変化していきます。
同じ器に盛り込む八寸も、その時折で随分と雰囲気が変わります。
ここまで季節を細かに表現出来る料理は日本料理だけではないでしょうか。料理そのものだけでなく、様々な器があり、またそこには古くからのいろいろな文化や風習が反映されています。
料理そのものの味も勿論ですが、あらゆる角度からお楽しみいただければ幸いです。

…『 鱧と松茸の土瓶蒸し 』

鱧と松茸の土瓶蒸し

「土瓶蒸し」は誰もが知る秋の代表的な御料理です。

しかし、そもそもなぜ「土瓶」で蒸すのでしょう。
詳しくは解らないのですが、農夫が山里で採った物を調理して食そうとした際に鍋が無いことに気付き、土瓶を代用したことが始まりだと聞いたことがあります。
そう言えば、「すき焼き」の鋤(すき)も農具が由来となっています。
いずれも諸説があるようですが、先にご紹介しました前菜の器も「箕(み)」をかたどってあります。
このように秋の器は山里を思い浮かべるようなものが沢山ございます。

また、料理の世界には「出会い物」という言葉がありますが、土瓶蒸しの鱧(はも)と松茸はまさに「出会い物」。
お互いがお互いの旨味を相乗効果で引き出し、鱧の上品な脂と旨味が松茸の香りと共に絶妙なハーモニーを奏でてくれます。
しかし、土瓶蒸しの魅力はそれだけではありません。土瓶蒸しの醍醐味はなんと言ってもその出汁です。
鱧も松茸も生の状態で土瓶の中に入れて出汁の中で蒸し煮込みのような調理となるため、すべての旨味が出汁の中に溢れます。
とても上品で繊細かつ濃厚なスープです。昆布、鰹節、鱧、松茸、すべての旨味や香りがとけ合います。
土瓶蒸しは、ただ「土瓶」に入っていると言うだけでお碗の御吸物と同じだと言う方もおられますが、どちらかと言うと鍋物に近いと思います。
山で鍋代わりに土瓶を使ったような野性味溢れる料理が料理人の手によって洗練され、現在でも愛させる逸品となったその背景を考えると、先人に対し、また食の文化に対し、改めて敬慕の念を抱きます。

…御焼物『 魳(かます)の柚庵焼き 』

御焼物『 魳(かます)の柚庵焼き 』

焼物もその都度の仕入れ状況や御献立によって様々に変わりますが、この時期の焼物を写真に収めたものはこの一皿でした。
3・40年前、魳(かます)はどちらかと言うと大衆魚だったように記憶していますが、今ではすっかり高級魚の仲間入り、特に秋の脂の乗った魳はぐんと値が上がることもあります。
今回は魳を柚庵焼きにし、アクセントとしてイクラを天盛りにしました。彩りと、秋の実りをイメージしていただくための趣向ですが味的にも良く合います。

器は、時候の花である菊絵の向附けを使いました。
菊は古くより縁起のよい花とされています。

…焚合せ『 鯛かぶら 』

『鯛かぶら』は京都を代表する料理の一つですが、どちらかというと家庭料理に近いものです。
今回は『鯛かぶら』をアレンジした当店ならではの「焚合せ」です。

焚合せ『 鯛かぶら 』

鯛の身で京水菜を包み込み、更に舌の上で滑る食感を楽しんでいただきたく、吉野煮に仕立てました。
煮汁はもちろん鯛の粗から取った出汁を使い、小さめの小蕪を菊に包丁したものを柔らかく炊きあげました。
鯛と小蕪、その双方の旨味が混ざり合ったその煮汁も楽しんでいただけるように薄味で仕上げ、熱々の共地餡をたっぷりと注ぎました。
柚子の香りと山葵を添えてお召し上がり戴きます。

焚合せ『 鯛かぶら 』